ブロガーのための著作権講座~画像等の引用について~
こんにちは、ぽちです。
先日、週刊はてなブログを覗いてみるとこんな記事が。
楽曲の評論記事を書くときに歌詞の転載をすると著作権侵害になり得るので気を付けましょう、という趣旨ですね。自分の好きな歌手だとついつい歌詞を紹介したくなるのでブロガーとしては耳が痛い指摘です。
かくいう僕も、職務上ほんのすこし知的財産法分野にかかわっているので、著作権法については一般人よりもかじっているつもりです。
そこで今回は、上記の記事に便乗して、ブログを作成する際に気をつけるべき著作権の知識(特に「引用」)についてその内容をまとめてみました。
僕自身が厳格にこれらのルールを順守できているかというと極めて心許ないので、人様に説教できた柄ではないのですが、思考整理の一助として眺めてやって下さい。
なお、この記事の内容はあくまで僕個人の私見にすぎないため、これによって生じた損害は責任を負いかねます。あくまで一つの読み物として捉えてくださいますようお願いします。
1 権利者に無許可で著作物を使うと 場合によっては懲役刑!
例えば、他人が写したすごくきれいな写真があったとします。
「うわ~この画像、自分のブログのトップページに使いたいな~!」と思って、撮影者に無断でその写真を張り付けてしまったら著作権法上どうなるでしょう。
まず、その写真は撮影者の創意工夫を凝らして創作されたものでしょうから、「写真の著作物」(著作権法(以下同じ)10条1項8号)として保護されます。そして撮影者はその著作権を専有します(17条1項)ので、写真を複製したりネットで公開したりするには、その撮影者及びその許可を得なくてはならないのが原則です。
したがって、もし著作権者に無断で写真をブログに載せてしまうと、複製権侵害や公衆送信権侵害にあたるため、著作権法上の罰則等をくらう可能性が出てきてしまうわけです。罰則に関する条文はこちら。
第109条
著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者・・・は、10年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
懲役刑まであるんですよ。
著作権侵害というと「民事上の問題だから比較的軽い制裁だろう」というイメージがあるかもしれませんが、法的には立派な「犯罪」です。
もちろん実際には、ブログに写真を載せたくらいで、即刻刑務所にぶち込まれるようなことはないですが、「著作権は軽く見ていると危ない」くらいの認識は持っておいた方がいいですね。
したがって、ブログで画像等を使用するときには、基本的には自分で創作したものかフリー素材を使うのが無難です。
2 例外的な許容規定の「引用」
⑴ 総則
しかしこの原則を貫くと、人の著作物を使うためにいちいち煩わしい手続きをとって著作権者に許可を得なくてはなりません。とても不便ですね。
これではその著作物を利用してより良いものを作り上げることができないことにつながり、ひいては文化向上の妨げになります(と、文化庁や偉い学者先生がおっしゃっています)。また、著作物の使い勝手が悪いというのは、著作物の価値を落とすことにもなるので、広い意味ではかえって著作権者の不利益につながるともいえます。
そこで、著作権法上、著作権者の許可を得なくても他人の著作物を利用できる規定がいくつか設けられているのです。今回はその中の一つ「引用」規定を見ていきましょう。
(引用)
この規定の趣旨は、著作権者の保護と表現の自由のバランスをはかったものです。
例えば、「この本は面白いです!お勧めですよ~」という記事を書くとき、本の表紙の画像すら載せられないのでは、どれがその本か示すことが困難になるのでとてもやりづらいです。
また、本文を一切引用できないのでは、その本のどの部分が面白かったのかを示すことができません。これでは文学評論の全否定(?)ですし表現の自由を不当に制限してしまいます。
そこで著作権法は、一定の条件のもと他人の著作物の引用を認めたのです。
⑵ 代表的な判例の基準
では、その一定の条件とは何でしょうか?
条文を見ると「公正な慣行に合致する」こと、及び「引用の目的上正当な範囲」であることというのがキーフレーズのようです。これだけでは抽象的なので、実際にこの解釈が問題になった判例を見てみましょう。
〇パロディ・モンタージュ上告審の判断
引用の適法性が問題になった事件は沢山あり、その判断基準についても混迷を極めていますが、代表的なものを一つ紹介します。著作権法の世界で有名なのがパロディ・モンタージュ事件といわれるものです。ここで裁判所はこんな基準で引用の適否を判断しました。
「引用して利用する側の著作物と,引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ」る明瞭区別性と「両著作物との間に前者が主,後者が従の関係がある」主従関係という二要件を充足すること
以下、順に見ていきましょう。
① 明瞭区別性
たとえばブログで他の画像を使うときに、これは他人が創作したものですよ、と明示することです。あたかも自分が創作したかの如くしれっと画像を使うことを許したら、「引用」だか単なる「盗作」だかわからなくなってしまいますからね。
したがって、例えば他人の文章を引用するときなどは、かぎ括弧をつけるなど、「これは自分の文章じゃないよ」と分かるようにする必要があります。
なお、引用規定とは別に、著作権法では、他人の著作物を利用するときには、その出所(ソース元)を表示する義務がある旨の規定がありますが(48条)、ソース元を明示することは、自分の創作物との区別を明瞭にする上でも必要なことでしょうね。
また、特にブログを作成するときには、その記事が引用であることを明示するため、引用文章はコピーペーストではなく、できるだけblockquote(引用タグ)を使った方が賢明です。はてなで記事を作成している人は、作成画面にある「❝」ボタンを使えということですよ。
コピーペーストが多いと、グーグルからいい評価を受けられませんが、適切に引用タグを使えば、「しっかりウラをとっている」と高評価をしてくれるケースもありますので、SEO対策にもなります。
②主従関係
いくら引用であることを明示しても、他人の著作物をベタベタ貼り付けただけのものは、独自の創作物として保護するに値しませんから、32条で適法になることもありません。
そんな考えから、引用としてて適法になるには、あくまで自分の記事がメインで引用が従であることが必要なわけです。当然といえば当然ですが、じゃあまとめサイトはどうなるの?というタイムリーな問題も生じます。これは編集著作物の適法性というややこしい話が絡みますので、ここでは扱いませんが。
まあ逆に言えば、そんな極端な場合でない限り、普通にブログなどで引用をする分には主従関係の問題について問題になることは少ないのかもしれません。
⑶ その他の判断基準
パロディ・モンタージュ事件の2要件を紹介しましたが、実際の著作権法の世界では、この2要件だけで判断する方法はとられていません。こんな要件は条文のどこにも書いていないので根拠が薄いし、この要件だけで適切に判断できないケースも多いからです。
そこで最近では、以下のような判断基準も加味されるようになっています(あくまで一例ですが)。
① 引用の必要性
必要性の程度は見解が分かれています。
中には「必要不可欠」くらい厳格に解釈する人もいますが、「引用があった方が記事が分かりやすくなる」くらいの必要性で足りると考える人もいます。ブログをやっている身としては、後者の方が有難い解釈ですが、厳しめに考えている方がトラブル防止になることは確かでしょう。
② 引用の量・範囲
これも意見が分かれているので、ブログをやっている人間としては、最も厳格な「必要最低限の範囲」を基準にした方が安全です。それ以上の使用は危険を伴うので、自己責任の世界ですね。
③ 引用の方法
たとえば、文章の説明で済むのにわざわざ画像を使うべきか?という問題です。
必要性の問題とも関連するのですが、要は「もっと著作権者に負担にならない引用方法はないか?」ということを常に自問して記事を作成しなさいよ、ということなんだと思います。
4 アマゾンの商品画像はどうなの?
※例えば家電製品などの量産品は、そもそも「著作物」ではないので、著作権法の問題にはなりません。あくまでここでは、例えば絵本の表紙など著作権法上保護される創作物を念頭に置いて話します。
ブロガーの中には、アフィ目的でアマゾンの商品画像を記事に貼ることも多いと思います。今のところアフィをやっていない僕もたまにやります。
というか、はてなブログは、デフォルトでアマゾン商品の画像を貼り付けられるようになってますね。
著作権についてネチネチ考えると、この画像使用だって問題になり得るんです。実際、著作権の問題になるのが嫌だからということで、アマゾン商品の画像を使うのをためらっているブロガーさんもいます。
たしかに公式見解で「シロ」と断言してくれないと不安ですよね。
とはいえ私見を言えば、この程度の画像使用は「引用」として許されるのではないでしょうか。現実問題として、これだけSNSが発達し、商品レビューが広く出回っている現在に商品画像を使えないと解釈するのは無理がありますし。
どうしても不安ならば権利者に問い合わせるのも一つの手段です。
ただ気を付けなくてはならないのは、この場合の商品画像の権利者はアマゾン当局ではなく、商品を創作しその知的財産を所有する会社です。
アマゾンは創意工夫を凝らしてその画像を撮影したわけではなく、単に商品の紹介の便宜として画像を使用しているだけですから、別途その写真の著作権者になるわけではありません。したがって、商品の著作権について何にもタッチしていないので、問い合わせ先としては不適切です。
おそらくアマゾンに問い合わせても、「詳細は各商品の権利者にお問い合わせください」など、機械的な回答が返ってくるのがオチです。
5 リンクを貼る行為どうなの?
⑴ 原則的には自由です
ブロガーの中には、自分の書いた内容を裏付けるために、他記事のリンクを貼ることも多いと思います。これは著作権法上どういう扱いになるのでしょうか。
結論からいうと、リンクを貼るだけなら著作権法上の「複製」にはならないので、許容規定である引用の要件に当てはまらなくても、基本的には著作権法違反にはなりません。最近になってこれに関する公式見解を発見したので、ほぼ間違いないでしょう。
http://www.meti.go.jp/press/2016/06/20160603001/20160603001-2.pdf
上記資料のⅱ8には、「インターネット上において、会員等に限定することなく、無償で公開した情報を第三者が利用することは、著作権等の権利の侵害にならない限り、原則、自由である」としています。
そしてリンクを貼る行為については、ⅱ13でこう述べています。
「ユーザーは、・・・リンク先のウェブページを閲覧することになるが、この際、リンク先のウェブページのデータは、リンク先のウェブサイトからユーザーのコンピュータへ送信されるのであり、リンク元のウェブサイトに送信されるわけではなく蓄積もされない。即ち、リンクを張ること自体により、公衆送信、複製のいずれも行われるわけではないから、複製権侵害、公衆送信権侵害のいずれも問題にならないものと考えられる」
つまり、このような場合はリンク先への入り口を作っただけで、自分のブログにその記事のデータをコピーしているわけではないから、複製や公衆送信にはならないよ、ということですね。
⑵ ただ無制限に自由ではないので注意!
もちろんリンクを貼る行為も無制限に自由というわけではありません。
たとえば、リンクを貼ることでリンク先の誹謗中傷をしたり、あるいはわいせつ画像等の犯罪性のある記事のリンクを貼ったりすると、著作権法とは別の不法行為責任をとられる可能性はあります。
さらにリンク先表示を記すために、そのリンク先の画像を使うと、別途その部分について複製権などの問題が生じます。この場合には、その画像使用が引用として適切かを判断することになるんでしょうね。
6 さいごに
以上、ブログに関連しそうな著作権の内容をざっと見てきました。
中には小難しいことも扱いましたが、僕としては細かい知識を覚える必要なんてないと思ってます。「そういえば著作権なんてものがあるな~」と少し意識するだけでも十分です。それだけでも記事作成の意識が全然違いますよ。
逆にあまり著作権を意識しすぎると、おっかなくて豊かな内容の記事が書けなくなってしまいます。それは著作権法の意図する創作文化の向上のためにもなりません。
何かにつけて「○○権違反だ!」とがなり立てるクレーマーになるのでもなく、著作権者の利益を無視するのでもない。そんなバランスの取れた常識さえ持てば、著作権法の知識なんて説明のための道具にすぎません。
その意味で、知識拡充のためというよりは、自分のバランス感覚を確認する手段として、今回の記事が何かのお役に立てればと思っています。